冠水車・水没車のリスクと中古車購入時の注意点:告知義務・違法性・消費者の守り方

近年、日本各地で豪雨や台風などによる自然災害が頻発し、それに伴って車の「水没被害」が増えています。水没車は本来であれば全損扱いとなり廃車にすべきものですが、実際には一部の中古車販売業者が買い取り、十分な説明を行わずに販売するケースが後を絶ちません。購入者は外見上の修復に惑わされ、後から大きなトラブルに巻き込まれることも少なくありません。

この記事では、冠水車や水没車を巡るリスク、業界規定と法律上の位置づけ、実際に寄せられている相談事例、そして消費者がトラブルを避けるためのチェックポイントについて、徹底解説します。


1. 冠水車・水没車とは何か

「冠水車」や「水没車」とは、洪水や豪雨によって車両が水に浸かったものを指します。エンジンルームや車内の電装系が水に浸ることで、短期的・長期的に深刻な不具合が生じやすくなります。特にリチウムイオンバッテリーを搭載したハイブリッド車やEV(電気自動車)の場合、水没による電気系統のダメージは安全性そのものに関わる問題となります。

外見上はきれいに修復されていても、配線の内部腐食や電子制御ユニットへのダメージは時間をかけて顕在化します。そのため、納車時は問題なくても、数か月後に突然不具合が頻発するケースが少なくありません。


2. 冠水車にまつわる実際の相談事例

自動車公正取引協議会には、冠水車に関する消費者からの相談が数多く寄せられています。ここでは典型的な事例を紹介します。

Aさんのケース

Aさんは中古車販売店で車を購入しましたが、納車直後からエンジンが頻繁に止まるなどの不具合に悩まされました。何度も修理に出したものの改善せず、最終的に正規ディーラーで点検を受けた結果、その車が水没車であることが判明しました。ディーラーからは「水没車は修理対応できない」と断られ、Aさんは販売店から一切説明がなかったことに強い不信感を抱きました。

Bさんのケース

Bさんは遠方の販売店から中古車を購入しました。事前に送られてきた写真では外装や内装はきれいに見えましたが、エンジンルームの写真は提示されませんでした。Bさんが念入りに「汚れはありませんか」と確認したところ、販売店からは「問題なく綺麗な状態です」との回答。しかし、実際に納車された車は強い異臭を放ち、エンジンルームには泥やサビが確認されました。典型的な“冠水車”だったのです。


3. 水没車を告げずに販売する行為は違法か

ここで気になるのは「水没車であることを告げずに販売するのは違法なのか」という点です。ある弁護士によると、現状の法律には「水没車を必ず告知しなければならない」と明記した条文は存在しません。しかし、自動車業界のガイドラインでは「冠水・水没歴を告知すべき」と定められています。

つまり、法的に「必ずしも違法」と断定されるわけではないものの、ガイドライン違反であり、消費者保護の観点から問題視される行為といえます。

民法上の契約不適合責任

民法上の「契約不適合責任」により、購入した車が通常期待される品質や性能を欠いていた場合、契約解除や損害賠償請求が可能になります。水没車であることを知らされずに購入し、重大な不具合が発生した場合には、この規定を根拠に救済を求められるのです。

消費者契約法による救済

さらに「消費者契約法」に基づき、販売店が購入者に不利益となる事実を故意に告げなかった場合、契約の取り消しが可能となります。水没車であることを知りながら隠して販売する行為は、まさにこの対象となる可能性があります。


4. 水没車を購入するリスク

水没車は見た目の修復で一見きれいに見えても、以下のようなリスクを抱えています。

  • 電気系統のトラブル: ECU(エンジンコントロールユニット)や配線の腐食による不具合が時間差で発生
  • サビの進行: 車体やフレームのサビが強度を低下させ、安全性を損なう
  • 異臭: カビや泥の匂いが消えず、快適性が著しく低下
  • ディーラーで修理拒否: 正規ディーラーでは安全性確保が困難なため、修理を断られるケースがある
  • 再販価値の低下: 将来的に下取り・売却する際に大幅な価値下落

5. 中古車購入時にできるチェックポイント

冠水車のリスクを避けるため、購入時には以下のチェックを行いましょう。

  1. エンジンルームやシート下、トランクに泥やサビがないか確認する
  2. カビや異臭がないか実際に車内でチェックする
  3. 電装品(パワーウィンドウ、ナビ、ライトなど)が正常に動作するか試す
  4. 修復歴・冠水歴の告知があるか書面で確認する
  5. 保証の有無や範囲を必ず確認する
  6. 不自然に安い価格設定には注意する

6. トラブルに遭った場合の対応

万一、水没車を購入してしまった場合は、以下の対応が考えられます。

  • 販売店に事実を伝え、契約解除や返金を求める
  • 民法の契約不適合責任を根拠に交渉する
  • 消費者契約法に基づき契約取り消しを主張する
  • 消費生活センターや弁護士に相談する
  • 自動車公正取引協議会に相談する

7. 今後の制度整備と消費者の自衛

現状では法律で「必ず告知せよ」と義務付けられていないため、制度の整備が求められています。今後、法改正や規制強化によって水没車の流通を厳格に管理することが望まれます。その一方で、消費者自身が知識を持ち、購入時に慎重に確認することが最も重要な自衛策です。


まとめ

豪雨災害の増加とともに、中古車市場における冠水車・水没車のリスクは高まっています。外見が修復されていても内部には大きな問題を抱えている可能性があり、ディーラーで修理を断られることさえあります。販売店が説明を怠った場合、民法や消費者契約法による救済が可能ですが、そもそも購入しないことが最善です。

購入者は「不自然に安い車には理由がある」と考え、必ず冠水歴の有無を確認し、書面で証拠を残すことが必要です。信頼できる販売店を選び、少しでも不審を感じたら契約を控える勇気も大切です。正しい知識を持つことで、消費者自身がトラブルから身を守ることができます。